都立高校入試への英語スピーキングテスト導入は見直しを

区役所10階屋上で

東京都は小・中・高において一貫した英語教育を推進しています。

英語の4技能、聞く・話す・読む・書く、のうちの「話す」能力を図るためのスピーキングテスト「ESAT-J(イーサット-ジェイ)」を東京都と民間事業者で共同開発し、プレテストが2019年と2020年は抽出校のみで、2021年は全公立中学校の中学3年生を対象におこなわれました。

このスピーキングテストが来年度おこなわれる都立高校の入学試験から導入される予定で、今年11月27日に実施されるテストの結果が反映されることになります。
しかしテストには評価方法など様々な問題があることを教員や有識者から疑問の声が上がっていて、都議会や国会でも取り上げられています。その内容について3月1日の予算特別委員会の教育費で質問しました。

入試に反映されるスピーキングテストも都の主催で、プレテストと同じ事業者が採点や試験監督を実施します。
受験対象は都内の公立中学生約8万人で、一人ひとりの音声解答をフィリピンで採点するとのことですが、採点期間は解答の移動日程を含めて考えても約45日間しかありません。

●評価方法
評価はA~Fの6段階あり、その評価を20点満点の点数に振り分けます。
その算出方法も複雑です。

まずは100点満点で採点し、

80~100⇒A⇒20

65~ 79⇒B⇒16

50~ 64⇒C⇒12

35~ 49⇒D⇒8

1~ 34⇒E⇒4

0   ⇒F⇒0

この赤字の点数がスピーキングテストの得点となります。

入試の総合得点はこれまで5教科のテストの得点と中学校が作成する調査票の点数を合わせて1000点満点でしたが、来年度からスピーキングテストの得点20点満点が加算され、1020点満点になります。
問題なのは、たとえばEランクを見た時に、1点でも34点とっても評価得点は同じ4点になってしまうということです。

さらにスピーキングテストを受けられなかった生徒に対しては、英語の本試験の点数の1.2倍で計算するとのことです。スピーキングテストを休んで本試験の1.2倍の方がいい、ということも起こりうるわけで、公平性に欠けます。

●利益誘導・格差を生むのでは
都はあくまで事業の主体は都であるので、しっかり事業者と情報共有すると言っています。しかし特定の事業者が関わる以上、その事業者の教材で事前に勉強すれば効果があるのでは、と購入する、あるいは講習会に参加するなど、利益誘導につながることも考えられます。また他の事業者もスピーキングテストに向けた対策事業のアピールを始めているので、生徒の家庭の経済状況によって格差を生むことになりかねません。

具体的な内容について都は明らかにしない、とのことですが、あまりにも不透明なことが多すぎます。

スピーキングテストは他の科目と違って「正解」がないため、採点者による個人差が起こる可能性があります。そのチェック体制はどうなっているのかもわかりません。そして8万人の音声解答を45日間という短期間で公平かつ正確に採点できるのか、個人情報は大丈夫か、吃音など配慮が必要な生徒には3倍の解答時間を設けるとのことですが、それで十分な対応ができるのかなどの問題があります。

現状では事業者の選定や、実施方法や採点、配点などにおいて最も重要な公平・公正の原則に反すると考えます。もっと時間をかけて課題を検証する必要があり、来年度のテストの中止を都に求めるべきと指摘しました。

これに対し区教育委員会の答弁は

●実施方法について
実施日程とか受験の会場、所要時間等の概要については既に都から通知を受けていて年明けには学校に伝えている。採点方法や配慮が必要な生徒への対応方法等については本年度におこなったプレテストに準じておこなわれるという認識でいる。ただ、フィリピンで採点をする云々ということは把握していない。今後都教育委員会がおこなう説明会、作成配布予定の実施要項などにより、詳細が分かり次第、区教育委員会として速やかに学校、保護者等へ周知を図っていく。

●採点について
採点についてはプレテストでは採点する3つの観点があり、コミュニケーションの達成度、言語表明、音声と、複数設けられている。この観点別の到達状況を採点することになる。
グレードというものが6つあり、どのグレードまで到達したかによって、グレードごとの点数が付与される仕組みになっている。ひとつのグレードの中で到達状況に応じて点数の開きがあるのは当然のことである。評価、採点の方法は様々である。
スピーキングテストがこの採点方法を選択していることに問題はないと区と教育委員会は捉えている。

なお、子どもたちには結果としてグレードと点数が戻されることになる。自分が何のグレードになっていて、点数がどれくらい取れているのかわかるようになっている。子どもたちにも詳細が把握できるような形で返されることから点数も一緒になっていることになる。
テストを受けられなかった生徒が本試験で1.2倍に換算するという話は都教委からは聞いていない。テストを受けられなった生徒については予備日が設けられている。
民間の事業者が作られる教材の購入、それから講習会への参加といったものは各家庭の判断にある。

●中止を求めることについて
まず都立高校の入試範囲は当然のことながら学習指導要領が示す範囲内の内容であって学校の授業でおこなっている内容から出題されることになる。
都立高校入試は平成9年度より英語のリスニングテスト、聞くというテストを導入した経緯があるが、話すことの能力を計るテストはこれまで導入されていなかった。
学習指導要領には4つの技能をバランスよく伸ばすことが重要であると記されていることから区としてもこれは必要な取組であると捉えている。

実施方法、採点、配点は今後行われる説明会などを通して詳細を把握することになる。
詳細が分かり次第区の教育委員会としても速やかに学校、保護者に周知を図っていく。

スピーキングの学習は否定しませんが、現段階で不透明なことが多過ぎ、教育委員会も把握できていない状況です。

何より1点差で合否が決まる入学試験にグレード、到達状況というはっきりしない評価をなぜ導入するのか、必要性に多くの疑問があります。都立高校の入試に導入することは見送るべきです。