「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」会議を傍聴して

第2回ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム会議資料から

ヤングケアラーとは、ケアを必要としている家族の介護や家事を日常的におこなっている18歳未満の子どものことです。

生活者ネットワークは学校で遅刻や欠席、忘れ物が多いなどの原因が、家族ケアのためと気づいてもらえず「困った子ども」と受け取られ傷ついているかもしれない、という視点をもって早期に支援につなげるために、教育委員会で実態調査をおこなうよう求めてきました。

最初は「介護を行う者の実情については、区が2017年3月に実施した在宅介護実態調査によれば、主な介護者は20代で0.2%、20歳未満はないとの結果が出ているため、教育委員会として現段階では実態把握の必要はないものと認識している」との答えでした。

ところが昨年の質問では「要保護児童対策地域協議会の調整機関である子ども家庭支援センターでは、既に個々の要保護児童や要支援児童について、関係機関を通じて把握し、連携しながら支援をしている。」とのことで2例をあげ、実際に当事者がいることがわかりました。しかし実態調査をおこなう計画はありません。

厚生労働省では2018年に要保護児童対策地域協議会を対象としたヤングケアラーの実態調査をおこないましたが、さらに正確に把握するために昨年12月から今年1月にかけて、厚生労働省と文部科学省が全国の公立中学校・高等学校から無作為抽出して調査をおこないました。練馬区内の中学校も学校名は非公表ですが、2校が調査の対象となりました。

この調査におけるヤングケアラーの定義は「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っていることにより、子ども自身がやりたいことができないなど、子ども自身の権利が 守られていないと思われる子ども」とされています。

実態調査の結果からヤングケアラーは中学生で5.7%、高校生で4.1%存在するという事実が判明し、その中で家族へのケアをほぼ毎日している子どもが5割弱、1日平均7時間以上している子どもが約1割もいることがわかりました。
その中で、きょうだいの世話をしている子どもが最も多く、食事の準備、掃除、洗濯が世話の内容で最も多いことがわかりました。

今年3月には厚労省と文科省の連携でヤングケアラーの支援につなげるための方策について検討を進めるとして「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」を立ち上げ、これまで会議が3回開催されています。
会議は厚労省、文科省の副大臣が共同議長です。

第1回は立ち上げについて、第2回は実態調査の報告、そして4月26日の第3回会議は当事者と支援者からのヒアリングでした。
第3回の会議をオンラインで傍聴しました。

5名の方からそれぞれの立場での報告がありましたが、そのうちの4名はご自身もヤングケラーの当事者であり、現在は支援者として活動されています。

・Yancle community代表 宮﨑成悟さん
16歳から現在まで難病で寝たきりの母の介護を担い、現在ケアラー支援事業を立ち上げ、ヤングケアラーとともに18歳以上の若者ケアラー支援にも取り組んでいる。

・「精神疾患の親をもつ子どもの会 こどもぴあ」代表 坂本 拓さん精神疾患の母のケアの体験から、精神疾患の親をもつ子どもの立場が主体となって会を運営。集まる場、語れる場、繋がれる場をつくり支援。

・「NPO法人インフォメーションギャップバスター」理事 弁護士
藤木和子さん
聴覚障害のある弟のケアを担ってきた体験から会を立ち上げ「障害や病気のある子どものきょうだい」という2次的ケアラーの支援に取り組む。

・尼崎市教育委員会事務局学校教育部こども教育支援課
スクールソーシャルワーカー 黒光 さおりさん
元ヤングケアラーとして、現在は尼崎市のスクールソーシャルワーカーとしてヤングケアラー支援策に取り組む。

・尼崎市こども青少年局こども青少年部こども青少年課係長
江上 昇さんより「尼崎市におけるヤングケアラー・こども支援」について報告
尼崎市の取り組みは2018年から始まり、ヤングケアラー定例会議の開催、関係機関での研修、当事者を交えたミーティング、教員向け研修、アンケート調査をおこなっています。
今後は早期発見のためのアセスメントシートの作成や、プロジェクトチームによる支援者のスキルアップなどを予定しているとのことです。

報告から当事者が共通して抱える問題のキーワードと支援策をまとめました。

キーワード
・本人に自覚がない
・自分がやらないといけない⇒家族の手伝いは当たり前のこと
・他人に言えない(話してはいけないと思う)、相談できない
・理解してもらえない
・先が見えない不安
・就学・就労・結婚の諦め⇒部活やサークル、バイト、友達づくり
・孤立
・支援の隙間にこぼれ落ちてしまう

障がいのあるきょうだいとして学校をはじめどこでも世話を頼まれる。
ひとりの子どもとして尊重して欲しい。

必要な支援策

・家で困っている以上学校で発見、福祉につなげること
気づき⇒学校で問題のある行動と思うなど、表面的に子どもを評
価せず、その背景には何かあると読み取って欲しい。
・スクールソーシャルワーカーの活用
学校はヤングケアラーにとって一番気づきやすく、一番近くで支
援できる場所。そこに福祉の視点を持つスクールソーシャルワー
カーが入ることによって早くヤングケアラーの気持ちやニーズに
寄り添うことができる。しかし表に出ないことにも関わるには人
数や時間が足りない。
・教員の研修⇒教員は忙しいので、まず理解することから。
・相談できる体制・気持ちを受け止めてくれる場
・家族をまるごと支援する
子どもにケアして欲しいと親は思っていない。しかし必要として
いる福祉サービスを利用しているのはわずか5%。
・病気を学ぶ機会
・孤立をふせぐ地域での居場所、当事者団体
・介護に理解がある職場環境
・要保護児童対策地域協議会が中核となる

最後に両省の副大臣から
山本博司厚労省副大臣
現状はケアを受ける本人の食事を作るなどの家事援助サービスはできても、ケアしている子どもの家事援助はできないため子どもの分の食事は作れない、という課題がある。柔軟な対応ができるよう考えている。
文部科学省丹羽副大臣
気づきとつなぎが大切。スクールソーシャルワーカーと教職員、教育委員会が連携しつつ必要に応じて適切な支援につなぐよう、責任をもって対応していく。

第1回の会議では成蹊大学文学部現 代社会学科の澁谷智子教授と一般社団法人日本ケアラー連盟の田中悠美子理事のお話もありましたので、関心のある方は以下のリンクで会議録を見てください。000761111.pdf (mhlw.go.jp)

ヤングケアラー経験者の報告は、単に「家族の世話をしている子ども」とひとくくりにはできず、背景には様々な立場や環境があることがわかりました。また経験したからこそ当事者に寄り添った支援ができるのだと思います。

今回の実態調査でようやくヤングケアラー、若者ケアラーが社会的な問題として取り上げられるようになりましたが、自覚していない子どもが多いことはその子どもの将来にも関わる問題であり、子どもの権利の視点で早く支援につなぐ必要があります。

ケアを受けている親やきょうだいも辛い思いをしているのですから、まずそのケアから、そして家族まるごと支援する制度を急ぐべきです。

特に今、新型コロナ感染症の影響で精神的、経済的な負担が大きくなっている家庭も増えていると思います。子どもや若者が希望を持て日々の生活が送れるよう、区としても横の連携強化によるヤングケアラーの早期発見と対応を求めます。