子どもの権利を保障する児童相談体制を~練馬区虐待対応拠点を視察~

12月25日、練馬・生活者ネットワーク子ども部会や豊島・中野の生活者ネットワークのメンバーと一緒に、練馬子ども家庭支援センター内に新設された「練馬区虐待対応拠点」を見学しました。

虐待対応を主な業務とする練馬子ども家庭支援センターは区役所内にありましたが、今年7月に区役所すぐ近くの民間ビルに移転し、その中に虐待対応拠点を設置しました。

◆23区の取り組みは?

2016年の児童福祉法の改正で、23区が区内に児童相談所を設置できることになり、世田谷、江戸川、荒川区が今年度すでに開設、来年度は港区と中野区が開設予定です。

◆練馬区の考え
練馬区は児童相談所を区内に設置することに区長が反対の立場を示している唯一の区です。
児童相談行政は養護施設が広く分散していること、一時保護所を区内に作っても、家族との関係性から安全に子どもを保護できるか、などの問題から児童相談所は都の専門的・広域的な対応と、区内5か所の子ども家庭支援センターの地域単位のきめ細かな支援を組み合わせることが必要との考えです。

◆まずは見学
私たちは迅速な虐待対応や支援が必要な地域の子どもと日常的に顔が見える関係性をもつこと、一時保護所がすでに詰め込み状態になっていて、子どもへの対応も施設によって様々なことから、支援の眼が行き届く区内への設置を求めてきました。

しかし、今回新設された虐待対応拠点で、区が示す「都の専門的・広域的な対応と、区内5か所の子ども家庭支援センターの地域単位のきめ細かな支援」の連携がどのようにおこなわれているのかを、まず知ることが必要であるとして今回見学を企画し、センター所長が施設の案内と説明をしてくださいました。

左は同じく練馬ネット区議のやない克子

1階が子ども家庭支援センターの事務室(職員36名)があり、8名の心理専門職員もいます。
その隣に虐待対応拠点として都児童相談センターのサテライトオフィスがあり、事務所と拠点の間は行き来できるようになっています。
拠点には新宿にある都の児童相談センター(各児童相談所をまとめる中央相談所に指定されている)の練馬担当職員30人のうち、初期対応チームから各3名ずつ交代で業務に従事していますが、その他の日も来ていることが多く、ほぼ毎日になっているそうです。地域に出向くこともあります。また心理専門の職員も来ているとのことです。

1階には面談室が3部屋あり、埋まっていることが多いそうです。
その他2階に会議室、研修室、リフレッシュルームがあり、大型ディスプレイでテレビ会議もできるようになっています。ちょうど会議をしているところでした。

相談室。箱庭や遊び道具があり、子どもの心の状態をうかがう部屋もあります。

◆虐待対応拠点の業務とメリットについての説明内容と参加者からの質問への回答をまとめると

●児童相談センターと子ども家庭支援センターが常に顔を合わせて会議ができる体制にある。
●近くに相談場所があることで、来る人のハードルが低いので面談しやすい。
●重篤なケースは親から離さないといけない、一時保護や施設入所を必要する場合で数としては少ない。夫婦げんかなどによる子どもへの面前DV、鳴き声が聞こえるケースが約9割を占める。この場合は解決に向けて支援をする。複数の機関があってもその狭間に落ちるケースもあり、その隙間を埋めるためにこの施設を作った。
●子ども家庭支援センターとしては学校や保育園など地域とつながっている。
●要保護児童対策地域協議会に児相職員が参加する場合もある。
●保護者が子育てに悩んでいるケースには「一緒に解決していきましょう」というスタンスで支援する。
●虐待予防については、民生委員、保健所、福祉事務所との連携は重要であり、子育て広場などで予防に取り組む。また訪問によるアウトリーチが多い。
●ベビーホテルなどの施設巡回で虐待防止の啓発をおこなっていて顔つなぎや情報共有をしている
●要保護児童対策地域協議会でもらった情報は共有し、1700~1800人のケースについて個別に対応している。
●中高生本人からの相談(学校を通して)もあり、弁護士を通してシェルターにつなぐケースもある
●都児童相談所の相談ダイヤル189と区の相談ダイヤルの流れについては、まず受けたところでどちらが対応するか判断する。

困ったときの相談ダイヤルを書いてあるカード。全校の児童生徒に配られています。

●それぞれの役割は分けた上で、一時保護から戻った後も子ども家庭支援センターと児童相談センターが一緒に見守りできる。
●警察との関係⇒警察から都に連絡があることが多く、特に夫婦げんかによる子どもへの面前DV。警察対応が強化したため通告が増えているが、情報すべてを区が得ているかはわからない。子ども家庭支援センターが知っておくべきことは把握している。
●現場としての実感として、よりやりがいをもってやっている。

◆子ども家庭支援センターのイメージって?
参加者からの「まわりのお母さんたちは子ども家庭支援センターへのイメージが『困ったら行くところ』というところと『子育ての広場ぴよぴよをやっていて楽しいところ』と場所によって様々ですが」という質問に対しては「練馬は虐待対応なのであまり多くの人がかかわるところではないが、その他5か所は気軽に来て欲しい」との答えでした。

◆一時保護所の現状と子どもの権利の視点
また「一時保護所における子どもへの対応の問題が様々ある中で、施設内で子どもの権利が守られているのか、区が設置することでそれが実現できるのでは」という質問をしたところ「保護所の問題は大分改善されてきている」とのことです。やはり問題はあるのです。

区はこれまで区の職員の児童相談センターへの派遣、テレビ会議の導入など連携強化をすすめる取り組みをしてきました。
しばらくはこの体制で虐待対応をすすめていくとのことですが、先行して区内に児童相談所を設置した3区はいずれも子ども家庭支援センターと児童相談所を一元化することで、一時保護所も含めた「子どもの権利の保障」や「子どもの最善の利益を優先した支援」が実現するとしています。
区長がある会派の質問に対し「子ども家庭支援センターは、身近な自治体として保護者と子どもに寄り添って相談指導を行いますが、これに対し児童相談所は、子ども家庭支援センターでは対応困難な児童を専門的、広域的に処遇します。」との答弁でした。
この「専門的、広域的に処遇する」という言葉に区長がイメージする児童相談所に「子どもの権利」の視点があるのか未だに疑問を抱いています。
しかし、連携強化という意味では一歩前進と捉え、設置した他区の情報も得ながら拠点での練馬モデルの取り組みを見ていきたいと思います。

豊島区と中野区の生活者ネットのメンバーも参加