市民の健康をまもる~保健所・公衆衛生の現場から~

10月の東京自治研フォーラムで、自治労東京本部衛生医療評議会の黒田藍さんから「市民の健康をまもる~保健所・公衆衛生の現場から~」をテーマにお話を伺いました。

黒田さんは八王子市保健所の保健師でもあります。

 

主な内容は、COVID-19(新型コロナ感染症)の当初の保健所の体制や現場で見えた課題、今後に向けた対策についてです。

保健所では感染症業務は通常業務として日頃から実施されています。
今年2月に新型コロナ感染症(以下コロナ感染症)のための「帰国者・接触者相談センター(電話相談)」が設置され保健師が対応しましたが、朝の情報が夕方には変わっていてコールセンターへの報告が遅れて混乱を招きました。特に3月に殺到したそうです。

コロナ感染症に関する保健所の業務は他にも
・陽性患者のフォロー(入院・軽症者施設・在宅療養)
・医療機関との調整・患者移送
・積極的疫学調査
・濃厚接触者の健康観察
・行政検体の回収・採取
・帰国者の健康観察
・軽症者の宿泊施設の運営に関すること
・PCR検査センターの設置
・感染拡大防止のための普及啓発
・東京都合同相談センターの応援業務(5月頃まで)

と業務が一気に増えました。

陽性者のフォローとしては医療機関への入院、軽症者施設(ホテル)、自宅など療養先の調整をおこない、家族への対応や入院費用に関することもおこなっています。
例えば家族に介護者がいる方は、ケアマネジャーとの打ち合わせや手続きもおこないます。

積極的疫学調査について
目的は原因の究明・水面下での感染拡大状況の把握で、本人などからの聞き取り、必要に応じて現地確認・指導もおこないます。
発症日の2日前からが発症可能期間として、遡って行動歴を調査し濃厚接触者がいないか確認します。プライバシーに関わることで聞き取りが難しいのですが、さかのぼりの調査は日本独自で、感染症には一定の効果があったとのことです。
ただ、聞き取りに1人30分、濃厚接触者がいた場合その聞き取りも含めると一人の感染者に3時間~4時間かかり、結局保健師が足りない状況になりました。

保健所の状況について
・朝ワイドショーを見ていた人から保健所に問い合わせや苦情が来ていたので、正しい情報をどう伝えるかが難しかった。
・検査結果が出てくるのが夕方のため、夕方から忙しくなり夜の相談も増え、朝型勤務と夜型勤務に分けている。人が足りない中でコロナに関わらず、このような危機的状況が起きた時に、マンパワーをどううまく使うかは考えておくべきポイント。
・相談例としては症状に関することと検査を受けたい、という内容が多く、医療機関と保健所とかかりつけ医の間でたらい回しにされたと感じる住民も多かった。
・メディアからの情報の混乱やどこまで公表するか、基準は自治体任せのため、「地域まで公表しないと不安」との声もあった。
・緊急事態宣言後の地域活動の再開にあたっては、自治体がきちんと方針を示して欲しいことや、どのように対策をしたらよいのか、感染者が出たら責任を負えない、などの声もあった。
・体力も落ちて特に高齢者の介護保険申請が増え、感染面だけでなく、身体面への不安も多かった。

「活動再開による感染のリスク」と「活動自粛による健康二次被害」を天秤にかけながら皆で決めていくしかない。ただ情報発信は必要で、八王子市では地域で活動する団体に向けて活動の注意点を掲載したチラシを作製、配布したそうです。

今後の課題として
・業務の効率化の必要性について
⇒専門職と一般事務職の仕事の整理、情報共有のデータベース化
災害と同じような対応ができていたらさらに良かった。
・人材確保のための他部署からの応援体制
⇒保健所業務に対する感染のリスクへの不安や事前レクチャー不足から、専門的な知識を持たない職員に対する教育体制を検討し、平時からの訓練で誰が役割を担っても安全に取り組める環境づくりが必要。さらには感染症業務に関する知識をもつ保健師の不足から、平時からジョブローテーションや感染症業務経験の必要性が求められている。
とはいえ職員のメンタルヘルス支援も必要で、いつ終わるのか見えない中で、お互いに同じ情報に基づいて一緒に考えることが必要。
・一次予防施策の強化と健康二次被害への対策
⇒高齢者の孤立に対するサポートや、妊産婦や乳幼児への支援、解雇に伴う経済的課題、自殺、見えない影響として10代の妊娠、DV被害も増えていることなどへのアプローチなど様々な課題に具体的な方法を考えて行くことが必要。

公衆衛生は「市民の生きることを守る仕事」ですが、保健所だけがやるのではなく、市民が一緒にやることが重要なポイントとのことです。
そして災害への備えとして感染症対策を踏まえた避難所における衛生管理を検討するチャンスでもあると同時に、在宅避難や車中泊の人たちへの保健活動のあり方も検討が必要とのことです。

最後に「そこに住んでいる住民たちがどう行動するか、あらためて自分たちが生きること、健康を守ることがどういうことか知るきっかけになる、とコロナ感染症をプラスにとらえ次のステップにどうつなげていくかが重要」と1時間、内容の濃いお話を伺えました。

私のところにも区民の方から色々な不安の声が届いています。
メディアの情報で数字が先走りして、それをどのように判断していいのかわからないまま不安が募るばかりです。
誰もがこれまでに経験したことのないことであり、これからどうなるかも先が見えない中で、片や自粛要請、一方でGoToキャンペーン、再び感染拡大のためキャンペーン中止、と国民は振り回され、国への不信感も増します。

新型コロナ感染症を恐れるあまり健康二次被害が起き、それが命にかかわることになってしまっては元も子もありません。

「活動再開による感染のリスク」と「活動自粛による健康二次被害」を天秤にかけながら皆できめていく
難しいことですが、そのための正しい情報を届けることや困っている人を必要な機関につなぐ役割を務めていきます。